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長崎地方裁判所 昭和32年(わ)470号 判決 1957年2月17日

主文

被告人を懲役三年に処する。

但し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、内縁の妻坂本文子と共に肩書石橋正規方に住み込み、家族同様に遇せられ自動三輪運転手及び農業手伝として稼働していたものであるが、分娩のためかねてその実家である島原市杉谷宇戸乙九一二番地坂本サヨ方に帰省中の文子が難産危篤の旨通知を受けて、昭和三十二年十月十三日午前二時三十分頃右サヨ方に赴いたところ、文子が男女の双生児を分娩していることを知るや嬰児を二名も連れて前記石橋方の世話になることを心苦しく思うと同時に、男女の双生児は畜生の生れかわりであるという迷信があるため世間態を恥じて、むしろ右双生児中男児のみを残し女児の方を殺害して、死体は密かに墓地に埋めようと決意し、

(一)同日午後三時三十分頃自ら右女児を抱き同家を出て同市杉谷宇針原乙六二八番地所在の坂本家墓地に赴く途中の道路上において、右女児の背部を自己の胸部に当て、両腕を前に廻して女児を反対に抱いた上、女児の前側より両手でその咽喉部を強く締めつけながら歩き、よつて間もなく同嬰女を窒息死に致して殺害し、

(二)前記文子の弟坂本松義に情を打ち明け、同人と共謀の上、同日午後四時頃前記墓地の古墳跡に穴を堀り、密かに右嬰児の死体を埋めてこれを遺棄し、

たものである。

(証拠の標目) ≪省略≫

(法の適用)

法律に照すと、被告人の判示第一の所為は刑法第百九十九条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、判示第二の所為は同法第百九十条、第六十条に該当するが以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条にしたがつて法定の加重をなし、その刑期範囲内で被告人を懲役三年に処するが、諸般の情状を考慮の上同法第二十五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することにし、なお、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文にのつとり訴訟費用は全部被告人に負担させる。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 臼杵勉 裁判官 関口文吉 諸江田鶴雄)

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